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独自の教育メソッドについて詳しいが、異文化論、地誌・風物生活誌としても楽しめた。
『フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書)』 堀内 都喜子 氏(略歴下記)
著者はフィンランドの大学の大学院(コミュニケーション学科)を卒業。在学中に本書を書き、帰国後に出版したとのこと。
そのフィンランドという国は、国土面積は日本から九州を除いたぐらいで、全人口は北海道より少ないそうで、人口密度は日本の10分の1程度とのこと。ちょっとヒトが少なすぎるのではないかとも思ったりするけれど、国土の70%は森林で10%は湖だから、人口が集まっているところには集まっているのでしょうか(日本だって国土の80%が山地だが)。
福祉国家として知られる国ですが、OECDによる子どもの学力調査でトップ、世界経済フォーラムによるの国際競争力ランキングで3年連続1位とのことで、後者の経済の方の1位は、ノキアなどのグローバル企業を有するものの、企業に勤める人は殆ど残業もしないため、著者自身も不思議に思っていて、失業率もやや高く、著者がこの国に住んでいた時は、それほど景気がいいと感じたことはなかったそうです(分析的には、国がIT産業に力を注ぎ、社会の情報ネットワーク化を推進したことで、90年代前半の不況から甦ったとしている)。
一方、学力調査の方での"トップ"については、フィンランドの教育メソッドが、著者の留学時の体験も含め、保育園から大学教育まで紹介されていて、初等教育における「できない子は作らない」ための工夫や、制服も校則も無いという自由な中学・高校、質の高い教師とカリキュラム、授業料の無料、国民の生涯教育への高い意欲などが挙げられています。
やはり、「落ちこぼれを作らない」という理念が、教育の全期間を通して貫かれているのが素晴らしいことだと思われ、女性の雇用機会が広くあり、育児をしながらも充分フルタイムで働けるというということ併せて、日本との大きな違いのように思えましたが、日本で常に問題視されながら解決の糸口が見出せないでいる問題が、この国ではクリアーされているだけに興味深かったです。
税金が高い(使途がガラス張りで、その大方が国民の福祉や教育に還元されているため、国民の不満は小さい)、国土の広さに比べ人口が少ないなど、根本的背景が日本と異なるということはありますが、この国の文化、生活様式や、人々のものの考え方の特質に触れた後半部分には、著者自身が初めてこの国に来て、びっくりしたり感心したり違和感を覚えたりしたことが率直に書かれていて興味深く、制度や立地条件の違いよりも、まず国民性が違うのだなあと思わされました(両者の相互作用もあるだろうが)。
同じヨーロッパでもラテン系民族のそれとも随分異なるようで、公の場では口数が少ないなど、部分的には日本人と似ているところもあり、それでいて、発言するときはハッキリものを言うなど(言わないと伝わらない。「トイレはありますか」と訊くと「あります」という返事しか返ってこないという話には笑った)、やっぱり違うところは違うと言う―フィンランド語は独自系の言語ですが、国民性も「独自系」だなあと思いました。
フィンランド流子育て(赤ちゃんを外で昼寝させる習慣はテレビでも紹介されていた)や、国民の間で人気のあるスポーツ、本場のサウナの入り方なども紹介されていて、異文化論、地誌・風物生活誌としても読める楽しい本でした。
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堀内 都喜子(ほりうち ときこ)
1974年長野県生まれ。大学卒業後、日本語教師等を経て、フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院に留学。異文化コミュニケーションを学び、修士号を取得。フィンランド系企業に勤務しつつ、フリーライターとしても活動中。